京葉銀行
2024
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基礎から学ぶ「円安・円高」。
家計にはどんな影響があるの?

資産運用・NISA自己啓発
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日々のニュースでは、円高や円安などの為替変動、インフレ(インフレーション)や利上げといった経済用語を耳にします。最近では、「悪い円安」と言う声も聞こえてきます。そもそも、円安・円高とはどのような現象で、私たちの生活や家計にどのような影響があるのでしょうか。

世界や日本の金融・経済状況は、社会の動きとともに刻々と変化していきます。現在はどのような状況にあるのか、そして、現状に対応しながら将来に備えるため、何かできるのか、考察・解説します。

「円安ドル高」「円高ドル安」「為替相場では記録的な円安(円高)が続く」といった表現を、ニュースなどでよく聞きますが、そもそも、為替相場や円高・円安とはどのようなものなのでしょうか。

為替相場とは

為替相場(為替レート)とは、外国為替市場において、異なる通貨が売買されるときの交換比率のことを指します。

たとえば「本日の為替相場は1ドル=120円」だった場合、日本の円でアメリカの10ドルを購入しようとすると、120円×10ドル=1,200円が必要になります。

為替相場は、市場における需要と供給のバランスで決まり、この仕組みを「変動相場制」といいます。為替レートの変動を認めない「固定相場制」もありますが、日本では1973年以降、変動相場制を採用しています。

円高とは? 円の価値が上がること

円高とは、他国の通貨に対して円の価値が上がること(または、円に対して他国通貨の価値が下がること)を指します。

為替相場で、1ドル=120円から1ドル=100円になった、と仮定してみましょう。この場合、「1ドルを購入するために、これまでは120円必要だったが、100円で購入できるようになった」ということです。つまり、ドルの値段が安くなったのです。同時に、円の価値が高くなった、と捉えることができます。これが「円高ドル安」です。

円安とは? 円の価値が下がること

円安とは、他国の通貨に対して円の価値が下がること(または、円に対して他国通貨の価値が高くなること)を指します。円高と反対の現象、と考えると分かりやすいのではないでしょうか。

たとえば、1ドル=100円から1ドル=120円になったとします。100円で購入できていた1ドルを購入するのに、今度は120円かかってしまいます。ドルの値段が高くなったと同時に、円の価値が低くなったということです。この場合を「円安ドル高」と言います。

為替相場はなぜ変動するのか?

為替市場において、「円が欲しい」と考える人が多い状況を「円買い」といい、円の需要が高まり価値が上がります(=円高になる)。反対に、円を売りたい人が多い状況が「円売り」で、円の供給が増えて価値が下がります(=円安になる)。これが変動する理由です。

投資家などにとって、円は比較的、安全な資産とされています。世界的な金融危機や災害が起きると、円の需要が高まる傾向にありました。この現象は「有事の円買い」と呼ばれ、2008年のリーマンショックや、2011年の東日本大震災の直後は1ドル=70〜80円台となる、記録的な円高でした。

現在は円高? 円安?

2022年2月に始まったロシア軍のウクライナ侵攻により、世界的に先行きが不透明な状況にあり、エネルギー資源や小麦粉などの供給不足に対する懸念が高まるなど、経済・金融市場には大きな混乱が起きています。ロシアは世界有数の産油国であり小麦の生産も盛んで、ウクライナもロシアよりは少ないものの小麦の生産地だからです。

しかし、今回は有事の円買いが起きず、反対に急速な円安が進んでいます。2022年9月2日現在、為替相場は1ドル=140円台で、直近1週間では138〜140円台を変動しています。

円安の一因としては、原油や小麦の価格高騰などがインフレの加速に拍車をかけ、金融引き締めのためアメリカで利上げが行われたことが挙げられます。政府が利上げをすると銀行の貸し出し金利も上がるため、企業の設備投資や人々の消費が抑制されます。一般的に消費が抑制されてモノやサービスに対する「需要」が減ると、モノやサービスの価格は下落します。そのため各国の中央銀行は、利上げによってインフレに歯止めをかけようとするわけです。

ドルの金利が上がれば、円で資産を持っておくよりもドルで資産を持っていた方が得られる利息が増えますから、円よりもドルで資産を運用する方が有利になります。そのため、ドルの需要が上がり、相対的に円の価値が下がって円安が起こっていると考えられています。

急速な円安が続いている現状ですが、円安にはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。家計に与える影響もあわせて見ていきます。

円安のメリット

1ドル=100円の時、300円の商品を買うためには3ドル必要です。しかし、円安になって1ドル150円になると、2ドルで購入できます。

輸出企業は、モノを売って外貨で受け取った代金を円に交換する際、より多くの円を得ることができます。その結果、企業の収益が上がって設備投資が進みます。関わる労働者の賃金が上がるため、家計にとってプラスになる、と考えられてきました。そのため、円安は「輸出に有利」と言われています。

また、円安では、少ない外貨で多くの日本円に両替ができます。そのため、海外から「日本を訪れたい」と言う人が増える傾向があります。訪日外国人観光客(インバウンド)の消費が伸びることもメリットでしょう。

円安のデメリット

円安には、デメリットがあります。

日本にとって、海外からモノを買う場合、割高になるため、輸入には不利になります。日本は、食料品の原材料や、製造過程で使う原油などのエネルギーの多くを輸入に頼っているため、大きな影響があります。

原材料やエネルギーの価格が上がると製造コストが増え、私たちが購入する商品の値段が高くなることが問題です。生活に不可欠な食料品や日用品の価格が上がると、家計にとっては直接的なダメージになります。

円高のメリットとデメリット

円高のメリットとデメリットは、円安の場合と対照的です。

日本にとって海外のモノが安く買えることになり、輸入に有利です。反面、海外にとっては日本のモノを買う際に割高になってしまうため、輸出には不利になると考えられます。

「良い円安」「悪い円安」とは? 現在はどっち?

円安には長所も短所もあることが分かりましたが、メリット・デメリットのどちらの影響を受けやすいかは、世界経済や社会情勢によります。メリットがデメリットを上回る場合は「良い円安」と言え、反対にデメリットの方が強いと「悪い円安」です。現在は、どちらなのでしょうか。

円安のメリットとして「輸出企業にとって有利」だと挙げました。ところが、近年では自動車メーカーなど製造業が生産拠点を海外に移す傾向にあり、国内の賃金が上昇しているとはいえず、円安のメリットを受けにくい状況なのです。

また、世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大が続いているため、国際的な人の移動に制限があります。そのため、外国人観光客によるインバウンド消費にどれくらい期待できるかは未知数です。

原油など資源をはじめとする輸入品の価格上昇があり、円安のデメリットが強くなっている現状は「悪い円安」だと言われています。悪い円安はモノの値段が上がり続ける「インフレ」を生じさせ、消費者にとって大きな懸念となります。

2022年9月現在、国内でインフレが進んでいます。悪い円安が輸入品の価格上昇によるインフレにつながっていることは前述の通りです。では、インフレとはどのような現象で、私たちにはどのような影響があるのでしょうか。

インフレとは? 何が問題?

インフレとは、世の中全体で、モノやサービスの価格指数(物価)が上昇し続ける状況です。需要が高まって供給を上回ったり、原材料費が高くなったりすることが原因です。

インフレになると、モノやサービスの価格が上がります。それによって、企業の売上高が増え、社員の給与が上がり、消費が増える……、といった好循環を生むことはありますが、インフレが急速に進み過ぎると家計にとってはマイナスの側面が出てきます。

インフレが急速に進むと、モノの価格上昇に対して賃金の上昇が追い付かず、人々がモノを購入しなくなったり、できなくなったりします。家計にとっては「いつも買っている日用品や食料品が値上がりした」「高すぎて購入できない」といったことが起こりかねません。

また、モノの価格が上がるということは、同時に「モノに対するお金の価値が下がる」とも言えます。現在、銀行口座などに現金を貯蓄していても、現金そのものの価値が下がってしまう可能性があります。

現在の物価の動きは?

消費者が購入するモノやサービスの物価の動きを示す指標を「消費者物価指数(CPI)」と言います。消費者物価指数のうち、天候などの影響で価格が変動しやすい生鮮食品を除いた総合指数は、2022年3月時点の統計で、7カ月連続の上昇でした。

国内の企業間で売買するモノの物価の動きを示す「国内企業物価指数」も2022年4月時点で14カ月連続の上昇となっています。4月は前年の同じ月に比べて10%上がりました。主に石油・石炭製品や鉄鋼などで価格が上昇しています。

つまり、物価が上がり続けており、インフレの状況にあるということです。現在でも大手コンビニチェーンの弁当や、紙オムツなどが値上がりしています。今後、物価の上昇が企業間に影響し、さらに幅広い分野でモノやサービスの価格が上がる可能性が否定できません。

ここまで見てきたように、悪い円安が続く現状では、今後、ますますのインフレが懸念されます。家計の負担が大きくなることも心配です。そのような状況の中で重要なことの1つが、今後の生活やライフプランに備えて、資産を有意義に管理・活用することでしょう。

円安に加え、モノに対して現金の価値が下がる恐れのある現状では、投資信託や株式投資などを用いた資産運用が注目されています。

投資信託や株式投資によって資産を膨らませることができれば、現金の価値の下落分を相殺することも可能になるからです。また、効率的な資産運用のための節税対策や、老後の資産形成も考えたいところです。

詳しくは後述しますが、投資信託や株式投資で資産運用をする際には、国が投資奨励策として用意している「NISA」や「iDeCo」といった仕組みも利用したいところです。NISAやiDeCoを利用すれば、一定範囲内の投資におけるリターンに税金がかからなくなります。こうした制度を賢く利用することが重要です。

上記のように、投資信託や株式投資によって資産を膨らませることで、悪い円安やインフレに備えることができるでしょう。では、「資産運用」「投資」にはどのような種類があるのでしょうか。それぞれ具体的にどのような方法や仕組みになっているのか解説していきます。

「投資信託」とはどんな資産運用の手法?

個人が、金融の知識や投資の経験をすぐに身につけることは簡単ではありません。また、大きな投資をするためのお金を個人で集めるには限界があります。そこで注目したいのが「投資信託」です。

投資信託とは、投資家から集めたお金を運用の専門家が、株式や債券に投資・運用する仕組みです。投資益が出ると投資信託の価値が膨らみ、投資信託を保有している投資家の資産も膨らむというわけです。

投資信託では、「1万口あたり1万円」といった「口」という単位で取引を行い、この「1万口あたり」の価格を「基準価額」といいます。基準価額は、投資対象資産の値動きにより変動します。購入時の基準価額よりも、解約時の基準価額が上がっていれば収益に、下がっていれば損失になります。

たとえば、米国株式を投資対象とする投資信託は、米国株式の変動に加え、ドル円の為替相場の影響を受けて値動きをします。米国株式の価格下落や、円高ドル安は値下がりの要因に、反対に米国株式の価格上昇や円安ドル高は値上がりの要因になります。

投資信託の特徴は?

通常の株式投資や債券投資と異なり、投資信託は多くの人からお金を集めて1つの大きな資産として運用するため、投資家は1万円程度の少ない金額から購入できます。また、資産を株式や債券などいくつかの商品に分けて投資し、リスクを分散させる「分散投資」が可能です。

また、金融や投資の知識や経験が豊富な専門家が運用することや、基準価額が公表されているため透明性が高い投資といえることなどが、投資信託のメリットです。

一方、基準価額の変動によっては、元本(投資したお金、元金)を下回る「元本割れ」になるリスクがあるため、注意が必要です。

「株式投資」とは、どんな資産運用の手法?

株式投資は、企業が発行する「株式」を購入することで株主となり、その株式の売却益や配当をリターンとして得る投資です。企業によっては、株主優待などの特典を用意しているケースがあります。株主優待では株主に対し、自社の製品や商品券・割引券などが贈られるのが一般的です。

株式投資の特徴は?

ある企業が発行する株式の、1株あたりの値段を株価といい、その株価は変動します。保有する株式の株価が買ったときよりも上がった時点で売却すれば、売却益が発生します。

株価は現在の業績ではなく、今後の業績を予測して変動するケースが多くなっています。今後、業績が上がりそうな企業の株式を持っていれば、より多くの値上がり益や配当金が期待できるでしょう。ただし、企業によっては、配当を出していないので注意が必要です。

投信積立サービスについてもっとくわしく

資産運用にとって投資と同様に重要なのが、税金対策です。

運用をしながら税制優遇を受け、効率的に資産形成をする方法として、国が促進しているNISAやiDeCoを積極的に活用するのも選択肢の1つです。

「NISA」とは?

「NISA(ニーサ:Nippon Individual Saving Account)」は、正式には「少額投資非課税制度」と言います。個人の資産運用を応援するための国による税制優遇制度として、2014年から始まりました。

株式や投資信託など、金融商品への投資で得た配当金や利益には、通常、約20%の税金がかかります。しかし、NISA口座で行うと、配当金や利益が非課税になります。

NISAには以下の種類があります。

  • 一般NISA:株式・投資信託などを年間120万円まで購入可。最大5年間非課税で保有できる
  • つみたてNISA:一定の投資信託を年間40万円まで購入可。最大20年間非課税で保有できる
  • ジュニアNISA:株式・投資信託などを年間80万円まで購入可。最大5年間非課税で保有できる

一般NISAとつみたてNISAは成人が、ジュニアNISAは未成年が利用できます。なお、ジュニアNISAは2023年で廃止され、新たな投資はできなくなります。

「iDeCo」とは?

iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、毎月一定の金額を掛け金として積み立てて運用し、老後の資産を形成するための年金制度です。公的年金に加えて受け取ることができる「もうひとつの年金」と言われています。会社員や公務員、自営業者、専業主婦など、現役世代はほぼ誰でも利用できる制度です。

ただし「現役世代はほぼ誰でも」と書いたように、iDeCoを利用できない人もいます。勤務先に企業型確定拠出年金の制度がある人や、国民年金保険料の猶予や免除を受けている場合は、iDeCoの利用はできません。

iDeCoは、金融機関(運営管理機関)を通して加入します。限度額の範囲内で、自らが決めた金額を掛け金とし、投資信託などの扱っている商品の中から選んで運用する仕組みです。原則60歳から「老齢給付金」として資産を受け取ることが可能です。

特徴的なのは、iDeCoで毎月拠出する掛け金は、全額が所得控除の対象だということです。つまり、節税になるのです。また、iDeCoの運用で得た利益や配当は、非課税になります。給付金を受け取る際にも税制優遇があります。

「経済情勢に対応して資産運用するべき」と聞くと、とても難しいもののような印象を抱いてしまうかもしれません。しかし、経済や制度の仕組みを少しずつ理解していくと、決して私たちの生活と無関係ではないことが分かります。

世界情勢や経済市場の変動で急速な円安が続く現状では、さらなるインフレと家計への悪影響が懸念されています。このようなタイミングは、将来に備えた資産管理やライフプランについて考えてみる良い機会かもしれません。

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著者:岡本一道

政治経済系ジャーナリスト。日本の国内メディアと海外メディアの両方でのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会・文化など幅広いジャンルにおけるトピックスで多数の解説記事やコラムを執筆。ニュースメディアのコンサルティングなども手掛ける。